
シンガポール:中国企業の自動運転ビジネスが相次ぐ、無人バスやロボタクシーを実用化
複数の都市でロボタクシーが商用化されている中国は「アジアの自動運転先進国」に位置付けられますが、このところ中国の自動運転関連企業によるシンガポールへの進出が目立っています。今月の動きでは、自動運転技術スタートアップの文遠知行(ウィーライド)が観光地セントーサ島で完全無人の自動運転バスの運行を開始したと発表。東南アジアで初めて、公道でのバス完全無人運行を実現したことを明らかにしました。シンガポール陸運庁(LTA)からの認可を得て、統合型リゾート「リゾート・ワールド・セントーサ(RWS)」内の定期運行をスタートさせています。運行する8人乗りの「ロボバス」は昨年6月に乗務員を乗せての運行を開始し、今年1月からハンドルやペダルを外して乗務員による監視下での運行を続けてきました。これまで数万人を無事故で輸送した実績が評価される中、今回の認可を受けて完全無人での運行に漕ぎつけた形です。現在はホテル「エクアリアス」「マイケル」「オラ」や商業施設「ガレリア」など、RWSと直結する施設を結ぶ12分間隔の固定ルートを走行しています。
また中国ネット大手の百度(バイドゥ)も先月、米ウーバー・テクノロジーズとの提携により中国以外でロボタクシー事業を展開する計画を発表。東南アジアに関しては、早ければ年内にシンガポールとマレーシアに進出する意向を表明しました。
人口が少ないシンガポールは市場規模が大きいと言えませんが、他国にアピールするショールーム的な役割が期待されそうです。
ASEAN企業がインド消費市場の開拓に本腰、ビンファストはEV現地販売の受付開始
急成長するインドの消費市場に食い込むべく、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の企業が現地展開を加速させています。特に注目を集めているのは、ベトナム国産EV(電気自動車)メーカーのビンファストが先月15日から、インドでEV販売の事前予約受け付けを開始したことです。南部タミル・ナドゥ州に新設した工場で組立生産するスポーツ多目的車(SUV)の「VF6」と「VF7」について、8月から正式に販売を開始する方針を打ち出しました。これを見据えて先月12日には、現地ディーラー13社との提携を発表。首都デリーやタミル・ナドゥ州チェンナイ、南部カルナタカ州ベンガルールなど、今後急速なEV普及拡大が見込まれる27都市にショールーム32カ所を展開する意向を表明しています。
インドの消費市場を開拓する動きは、ASEANに進出した日系企業の一部でも見られます。大塚製薬は先月9日、7月からスポーツ飲料「ポカリスエット」の現地販売を開始したと発表。インドネシア法人のアメルタインダ大塚が製造した製品を輸出する形で、インドでの販売を加速していく計画を明らかにしました。「ポカリスエット」は現在、20以上の国・地域で販売されていますが、2021年以降は海外での売上数量が日本国内を上回る状態です。すでにインドネシアやベトナムなどASEANで売り出されていますが、今後はインドが有望な販売エリアに加わることになります。
中国電池メーカーの東南アジア進出相次ぐ、世界市場開拓の橋頭堡に
中国バッテリー関連メーカーの間で、東南アジアに足場を築く動きが表面化しています。電池の原料となるニッケルの産出地を擁すること加え(インドネシアは世界最大のニッケル生産国)、タイやマレーシア、ベトナムなど電気自動車(EV)が急速に普及しているエリアが隣接していることなどが要因です。
最近のニュースでは、車載電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)によるインドネシア新工場の建設が話題になりました。CATLは6月、西ジャワ州カラワン県でEV用電池の一貫生産事業の起工式を実施。ニッケルラテライト鉱の採掘(北マルク州のハルマヘラ島)、乾式冶金、湿式冶金、バッテリー素材、バッテリーリサイクル、バッテリー製造までを網羅するEV用電池の完全なバリューチェーンを構築する計画を明らかにしました。総額59億ドル(約8700億円)を投じ、年間EV30万台分の動力電池を供給できる体制を整える方針です。
また、セパレーター大手の星源材質科技(深圳市)は先月、マレーシアのペナン州に建設した工場を稼働させました。総額32億リンギ(約1100億円)を投じた第1期の工場は年産能力が13億平方メートルに上り、「湿式コーティング型セパレーター」と呼ばれる製品で世界最大級の生産拠点になります。2027年に完成予定の第2期にも32億リンギを投じ(生産能力が20億平方メートルに拡大)、セパレーターの世界シェア15%を目指す考えです。
中堅電池メーカーである恵州億緯鋰能(EVEエナジー)も、マレーシアの生産能力を拡大させています。EVEエナジーは6月、新たに12億ドル(1780億円)を投じて現地・第2工場を建設すると発表。今年初めに総工費4億2200万ドルの第1工場を稼働させたのに続き、巨額の費用を要する矢継ぎ早の増産計画を明らかにしたのです。
中国のバッテリー関連メーカーにとって、東南アジアはサプライチェーン再編のカギを握る重要エリアになりつつあります。